hawaiiレポート
今回、琉大ツーリズムアカデミー表彰制度を通し、平成31年2月24日~2月28日(5日間)の日程で、ハワイでの海外現場研修に参加した。研修の中で訪問したホテル「アロヒラニ・リゾート・ワイキキ・ビーチ」、および「ポリネシア・カルチャー・センター」の視察を通し、ハワイと沖縄についての比較、またハワイの事例を参考に、現在の沖縄観光における課題を発見し、改善点を提案したい。
1 ホテル視察について
ハワイ観光の歴史について
ハワイ観光の始まりは、19世紀、捕鯨船の乗組員による立ち寄りからスタートしたと言われる。観光は本格化しはじめたのは1927年。サンフランシスコからのクルーズが就航し、ハワイの人々は、クルーズ到着時に、来島者へ贈るレイを準備しフラや音楽ショーを港で提供したり、ヨットで海に出て迎えたり熱烈に歓迎した。
1945年、第二次世界大戦が終了すると、ジェット機の運航(1959年)、さらにジャンボジェット機の運航がスタート(1970年)。これを機に、これまでは富裕層しか楽しむことができなかったハワイ観光に必要な価格が下がり、ミディアム層もハワイ観光が可能になった。入域観光客数の増加に伴い、宿泊施設であるホテルも多く誕生するようになった。
ハワイのホテルの歴史について
ハワイ観光の中心とも言える、オアフ島ワイキキビーチに最も古くオープンしたのは「モアナ・ホテル(現モアナ・サーフライダー・ウェスティン・リゾート&スパ)」(1901年)。2番目に古いホテルとして1927年に“太平洋のピンク・パレス”と呼ばれるピンクの外観が象徴的な「ロイヤルハワイアンホテル」が開業。その後、中流階級向けに、アウトリガーホテルアンドリゾーツがハワイへ進出し(1955年「アウトリガー・リーフ・ワイキキ・ビーチ・リゾート」開業)、続々とホノルル・ワイキキエリアでのホテル開発が続く。ワイキキビーチ沿いロイヤルハワイアンホテルの隣地に位置する、「シェラトン・ワイキキ・ホテル」は1971年に、ホノルル市内初の1,000室を越える大型リゾートホテルとして開業後、マーケットのプライスリーダーとなっている。
沖縄観光の歴史とホテルについて
ここで改めて沖縄観光の始まりについて確認したい。沖縄県を訪れる観光客は、本土復帰した1972年には44万人であったが、その後、1975年に開かれた「沖縄国際海洋博覧会」をきっかけに、観光客数は倍増、本格的な観光がスタートした。観光立県沖縄としての始まりである。
沖縄県で最も古く誕生したホテルは、那覇市の波の上に位置する「沖縄ホテル」(1941年開業)。リゾートエリアとしてホテルが集中する恩納村において、もっとも古く開業したのは、「ホテルみゆきビーチ」(1974年)。続いて「ホテルムーンビーチ」が1975年開業、その後“白亜のリゾートホテル”と称される「ANAインターコンチネンタル万座ビーチリゾート」が1983年に大型リゾートホテルとして誕生し、続々とホテルの開業が進む。ホテルの開業年から見て、ハワイから40年ほど遅れて沖縄のリゾート観光が広まっていったと考察される。
[出典]
沖縄県公式ホームページ
https://www.pref.okinawa.jp/site/kodomo/sangyo/kanko.html
沖縄ホテルホームページ
http://www.okinawahotel.co.jp/history/
「アロヒラニ・リゾート・ワイキキ・ビーチ」について
先述を踏まえ、今回視察を行った「アロヒラニ・リゾート・ワイキキ・ビーチ」を見てみよう。まずはホテル概要を紹介したい。
ホテル概要
名称 アロヒラニ・リゾート・ワイキキ・ビーチ
所在地 2490 Kalakaua Avenue, Honolulu, Oahu, Hawaii 96815, UNITED STATES
建物 シースケープ棟地上39階建て、ビーチサイド棟地上17階建て
客室数 839室
ダイニング 5施設(モリモト アジア、モモサン、Oバー、スウェル バー、ライチ)
付帯施設
サービス 宴会場・会議室(改装中)、スウェル プール、アイランド クラブ アンド スパ、ロングボードクラブ(2019年5月オープン予定)、ホテル内アクティビティ(モンキーポッド・キッズクラブなど)、文化体験(フラレッスン、レイメイキングなど)
運営会社 ハイゲート
アロヒラニホテルは、1969年に「パシフィック・ビーチ・ホテル」としてオープン。その後2018年5月に、$115million(日本円換算約128億7,000万円)をかけて、客室をはじめ、ロビーや廊下、プール、レストラン、ラウンジなどの共用部についても改装、新しく「アロヒラニ・リゾート・ワイキキ・ビーチ」としてグランドオープンした。
運営はハイゲート社。ハイゲートは、アメリカ、ヨーロッパに展開する不動産投資会社であり、今回ホテル視察を担当してくれたATSUKO DENNINGさんによるとニューヨークではホテル客室の約30%を所有するそう。またハイゲートはホテルの計画・開発、リノベーション、売却と総合的に事業を展開し、ホスピタリティ施設のイノベーターとしても業界に広く知られている。ホテルの所有・経営にとどまらず、運営事業も展開。既存ホテルに投資をし、不動産価値の向上をした上で売却し、キャピタルゲインによって収益をあげるケースもあるが、ほとんどは売却後も運営会社として残り、ハワイ内では、所有するホテルこそないものの、6つのホテル運営を行っている。
オアフ島ホノルル ハイゲート運営ホテル一覧
アロヒラニ・リゾート・ワイキキ・ビーチ
アンバサダー ホテル ワイキキ
アストン ワイキキ ビーチ ホテル
コートヤード バイ マリオット ワイキキ ビーチ
ヒルトン ガーデン イン ワイキキ ビーチ
パール・ホテル・ワイキキ
[出典]
https://www.businesswire.com/news/home/20171004005740/ja/
リニューアル後の現在もアロヒラニホテルは、更にコストをかけて、「ロングボードクラブ」というクラブラウンジの設置(2019年5月オープン予定)、また大小5~6個(人数20名~最大1,500名)を備えるバンケットも工事中で、ADR(Average Daily Rate:平均客室単価)向上戦略および、MICE需要への取り組みが伺える。
特筆すべき施設としては、2018年の改装を機に、コンシェルジュカウンター・ベルデスクの他に、主にアジア圏観光客向けに作られたFIT(free individual traveler:団体旅行やパッケージツアーを利用することなく滞在する個人旅行者)専用カウンター&ラウンジを備えていることである。ホテル内には、旅行会社のカウンターステーションも設置され、スタッフは常駐してはいたが、このカウンターはホテル単体としての独自の運営で、ホテルのスタッフが常駐する。提供されるサービスとしては、チェック・イン前の荷物のお預かりから、自分の国の言語での観光案内や手配対応など。
ハワイ事例から見た沖縄の現状
沖縄の観光において、長年にわたりフライトとホテルの購入は、旅行会社を通して行われ、近年OTA(Online Travel Agent:インターネット上だけで取引を行う旅行会社)を利用し、施設と旅行者が直接取引をするケースが主流になっているものの、いまだに自社の販売力が弱いホテルは、旅行会社経由での販売に依存せざるを得ない、または依存させられるケースも多く存在する。
その名残として、恩納村のホテルには、某旅行会社の専用ラウンジが、そのホテルの中で景色の良い場所に設置され、その旅行会社を通して予約した旅行者に利用できるようになっている。ただしこれらの専用ラウンジは、あくまでくろげる“スペース”の提供のみにとどまり、サービスとしても無料のドリンクが置かれたり、新聞が置かれたりする程度で、旅行会社のスタッフが駐在し観光案内などのサービスを提供するものではない。またホテルスタッフについても、そのラウンジ専属のスタッフはおらず積極的な運用は行われていないのが現状である。
現在、沖縄県内ホテルでも、これまでクラブラウンジの機能を持っていなかったホテルが、改装しクラブラウンジの運用を強化する事例もあるが(ANAインターコンチネンタル万座ビーチリゾート:2018年リニューアル)、FITのハイエンドなサービスを求めるユーザーに向けた施設やサービスの提供は、ADRの上昇を目的としたものであり、沖縄観光収入の増加に貢献しているものの、旅行者の目線を重視したものでないように思える。
[出典]
https://www.anaintercontinental-manza.jp/club-intercontinental
[参考リンク]
https://www.tourism.jp/tourism-database/glossary/allotment/
ホテル視察・考察後のまとめおよび提案
ハワイと沖縄の観光の歴史を振り返ると、観光地として確立し始めたのは、ハワイの方が歴史は長く、ハワイはFITを主流とした旅行のスタイルが確立し、FITに対するサービスがハード面、ソフト面においても非常に高いと感じる。ハワイ大学Dr.Uyenoの話によると、大勢で移動をする日本人の団体旅行スタイルは、当初は異色に見えたという。
近年、日本においても旅行会社を経由して旅行をする場合でも、オプショナルツアーを利用しないフリープランツアーや、ダイナミックパッケージ(航空券+ホテル宿泊のみをセットした商品)を、インターネット上で予約を完了する旅行スタイルが増えており、日本人・アジア圏においてもFITが主流となっている。このことからも、自分の理想とするコースで施設や町を回りたい、他の人とは違った体験をしたいという需要の背景が見え、慣れない旅先でその願望を叶えるためには、宿泊施設等からの観光のサポートは不可欠である。インバウンドにとっては尚のこと必要となるだろう。
ホテルのコンシェルジュデスクや、クラブラウンジにおいても、観光客からのリクエストがあれば、観光地やレストラン、その移動に対しての情報の提供や、手配のサポートは行うであろうが、より積極的に観光客のニーズを引き出し、情報を提供する場所として、ホテルが独自に運営するFIT専用のカウンターを設けるのは一つの手段であろう。
とは言え、多言語対応が可能で、さらに観光案内や情報提供に長けているスタッフが、多数あるホテルそれぞれに在籍していない上、質の高いサービスを求められるラグジュアリーホテルには、そういったカウンターを設けることは似つかわしくないという声もあるだろう。
個人旅行において、旅行会社のパッケージツアー商品の販売が縮小し、より自由に観光をしていくスタイルが主流となれば、マーケットの需要に合わせ、それぞれのホテルで提供されるサービスもおのずと変化をしていくことが予想されるが、現状、すぐに動き出すことは難しいだろう。
まずは那覇市・恩納村のような多数のホテルと観光客が集中する場所に、情報ハブセンターを設置できないだろうか。現在私が勤めるハイアットリージェンシー那覇沖縄から徒歩3分の場所に、那覇市観光案内所が設置されており、国内外の観光客向けの観光案内や、ベビーカーや車椅子の貸し出し、観光施設へのチケット販売等のサービスを多言語で提供するが、大勢の人が利用している様子は見られない。
この場所をハブとして、近隣のホテルやレストラン、レンタカーショップ、バス会社と連携することで、より観光客の求めるサービスに近いものが提供できるだろう。その前提として、観光案内所がどのような場所であるかを、観光客だけでなく、近隣の観光事業所に広く知らせることで積極的活用を促したい。これにより観光客の満足度の向上と、施設・人材の有効活用に繋がるであろう。
[参考リンク]
NAHANAVI(那覇市観光案内所)HP
https://www.naha-navi.or.jp/
2 ポリネシア・カルチャー・センター視察について
ポリネシア・カルチャー・センター概要
ポリネシア・カルチャー・センター(以下PCC)は、ポリネシアの島々の文化と、ポリネシアンの精神を世界の人々と共有することを目的とし、ユニークなアトラクションやショー、食事などの体験をテーマパークとして提供している。またMICE施設としての要素も多く含み、様々な用途で使用できる大小のシアターやパーティー会場の用意、企業や学生を対象にしたチームビルディング、育成、国際交流などのプログラムを用意している。
一般の観光客は、PCCで提供されるパッケージツアーを購入し入場。敷地内には、サモア、アオテアロア(ニュージーランド)、フィジー、ハワイ、タヒチ、トンガの6つのポリネシアを代表する島々の伝統的な建物が再現され、ポリネシアの島々出身のスタッフと一緒に楽しめるアクティビティを体験したり、ショーを観覧したりする。
PCCで体験できる内容は、敷地内の案内誘導に始まり、テーマごとの島を回るカヌーツアー、各エリアでその地域の文化を伝えるショーの提供、伝統的なアクティビティ体験、1日2回の大型のショー(水上ショー、演劇ショー)の開催など、非常に種類が豊富である。また一緒に施設をまわるスタッフは、自国の言語で説明をしてくれるので、十分にポリネシアンの文化を理解し、体験を楽しむことができる。現在PCCでは25ヶ国の言語が対応可能であるという。
驚くべきは、スタッフのほとんどが学生という点である。PCCはポリネシア文化を保存、再現すると同時に、隣接する「ブリガムヤング大学ハワイ校」の学生への奨学金、そして仕事の場を与えることを目的とし1963年にNPO法人として設立されている。
PCCで開催されている、いくつものショーは、会場の音響や照明などの演出からスタッフとしての出演まで、すべて学生が創り出しているという。学生たちは、ガイドやショースタッフ、パフォーマーとして、時には演出家やマーケティング担当者として、PCCで提供されるあらゆるサービスを、実践し繰り返すことで、このビジネスを体験していく。今回私たちを案内してくれたTAKUYAさんも学生時代にはPCCでアルバイトとして働き、ビジネスを学んだ。TAKUYAさんによると、ジョークのタイミングなども計算されているとのこと。
PCCは、単なる観光施設ではなく、MICE施設として積極的に活用され、さらには学生のリアルな学びの場として確立している。
ポリネシア・カルチャー・センター視察・考察後のまとめおよび提案
PCCの体験を通し実感したことは、魅力を最大限に“伝える力”である。概要で説明したように、ここまで手厚いガイドが付く施設はあるだろうか。日本の観光地では、その土地や建造物の歴史の紹介を看板や自動音声にて行うケースが多いように感じる。あまり主張しすぎないことは、‘阿吽の呼吸’や‘空気を読む’という文化を持つ日本の特徴であるのかもしれないが、それでは良さが伝わらないのではないだろうか。
1つの商品・サービスを提供するにあたり、立地や周辺環境は?販売方法やPR方法は?サービスを受ける側の理解度や提供者・パフォーマーは誰なのか、その場の音やにおい、盛り上がり、空気感はどうか等、ここまでしっかりと考えることで初めての本来の魅力が伝わり、そこに感動が生まれると感じた。
観光というと“ホスピタリティ”という言葉が連想されるが、こういった施設において、質の高いサービスを提供するには、“エンターテイメント”を学ぶ必要があるのではないだろうか。エンターテイメントというと、現在の日本においては、舞台や演劇、ライブなどの音楽やダンスを指すことが多いが、そういった場所で活躍するパフォーマーやクリエーターは特別な人達であり、専門家が提供するものと制限をかけていないだろうか。
沖縄県においてナイトエンターテイメントの不足が指摘される中、今後このような施設がオープンし、増えていくだろう。その時に向けて、“エンターテイメントマネジメント”を学ぶ場所が必要なのではないだろうか。
観光産業における人材育成
沖縄県内には観光を学ぶことができる専門学校がいくつか存在し、自身の普段の業務を通し、各校とのやりとりしている中で感じることがある。どんどんと変化をしていく、観光業界に即した教育はできているのか、在学中の学びを知識やスキルだけでなく、自分のビジネスとして実感できているか。PCCの事例と比べると、現状の教育体制は、古いと感じてしまう。
「琉大ツーリズムアカデミー」の学びを通し、“沖縄観光の発展に貢献できる他業種・他産業との「新たな」連携”というテーマでプレゼンテーションを行い、私は、「学校・教育機関との連携による人財確保と育成」をタイトルに提案をしたが、まさしくPCCのような実践の場での学びは、人材育成の観点から非常に有効であると考える。
3 海外現場研修を通して
今回の海外研修で、ハナウマベイ、スリースター・サンセット・ディナー・クルーズ、アロヒラニリゾートワイキキビーチ、ハワイ沖縄センター、JALPAKアロハステーション、ハワイ大学、ハワイコンベンションセンター、ポリネシアンカルチャーセンターと様々な分野の施設を訪問した。また一緒に研修へ参加したメンバーも、東村観光推進協議会、日本トランスオーシャン航空、沖縄観光コンベンションビューロー、竹富町役場に勤める幅広い分野の方々であった。
この研修の中で、自分が勤める「ホテル業界」以外の現状を体感し、かつ観光というくくりの中でも別分野の最前線で働く方々の視点を知り、意見交換を行った。このことから、沖縄県としての観光プロモーションや誘致・観光推進、飛行機(交通インフラ)、旅行会社、ホテル、施設そして教育機関、それぞれの会社が同じ業界にありながらも、普段どれほど分断されているかをこの研修の中で実感する機会が多くあり、観光業界はそれぞれの分野の持つ役割が独立しすぎていると感じた。
私のこの研修での体験や感じたことを、観光に携わる多くの人に知ってもらい、日頃の業務を通じて、今後も沖縄観光の発展に貢献していきたい。
以上
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